タクシー・運送業界の深刻な人手不足|経営者が知るべき実態と特定技能活用の実践ガイド
- 高橋 壮
- 2025年12月16日
- 読了時間: 13分

目次:
近年、配車アプリで呼んでも「近くにタクシーがいません」と表示されたり、深夜に駅前でタクシーが一台も見つからなかったりする経験をされた方は多いのではないでしょうか。その背景には、表面的な数字では見えにくい構造的な人手不足が進行しています。
本記事では、運送会社の経営者・採用担当者の視点から、業界が直面する人材課題の本質を明らかにし、特定技能制度を活用した実践的な解決策までを詳しく解説します。
1. タクシー・運送業界の人手不足は本当に深刻なのか

データが示す業界の現実
全国ハイヤー・タクシー連合会のデータによれば、タクシードライバーの平均年齢は約59歳に達しており、60歳以上が全体の半数近くを占めています。さらに問題なのは、この10年間で30代以下の新規就業者が約40%減少している点です。

つまり、大量退職時代を迎える一方で、後継者がほとんど育っていないという二重苦に直面しているのが実態です。
「人手不足は嘘」と言われる理由の真相
確かに平日の昼間、都心部では空車のタクシーが目立つエリアもあります。これが「人手不足は嘘だ」という声につながっています。
しかし、採用担当者の視点で見れば、これは誤解です。実際には以下のような状況が同時進行しています:
時間帯による偏在:早朝・深夜帯は極端に不足
地域による格差:地方部では日中でも供給不足
繁忙期の逼迫:年末年始、観光シーズンは絶対的に不足
配車需要の急増:アプリ経由の予約が取れないケースが頻発
つまり、見た目の「空車」と実際の「稼働可能ドライバー数」には大きなギャップがあるのです。
経営視点で見た人手不足の影響
人材不足は単に「車が足りない」という問題ではありません。経営に直結する以下の課題を引き起こしています。
売上機会の損失
需要はあるのに応えられない
配車依頼を断らざるを得ない
繁忙期の収益を最大化できない
既存ドライバーへの過度な負担
長時間労働の常態化
休日出勤の増加
結果として離職率が上昇
サービス品質の低下
疲労による接客品質の低下
事故リスクの増大
企業ブランドへの悪影響
2. ライドシェア解禁で変わる業界構造と人材戦略

2024年4月に始まった日本版ライドシェア
2024年4月、一部地域でライドシェアの限定的な導入が開始されました。これはタクシー不足を補完する目的で始まった制度ですが、業界にとっては競合の出現を意味します。
現在の導入条件
タクシー事業者が管理する形での運用
タクシーが不足する時間帯・地域に限定
一般ドライバーは事業者の管理下で運行
ライドシェアがもたらす3つの変化
課題 | 概要(簡潔) |
競争環境の激化 | タクシー同士の競争に加え、新規プレイヤーが参入。価格・サービス品質・利便性での差別化が必要。 |
人材獲得競争の変質 | ライドシェアは柔軟な働き方を提供し、タクシー業界が求める若手・女性と競合。魅力的な労働条件を提示できなければ人材流出の可能性。 |
利用者の選択肢拡大による淘汰 | アプリで比較が容易になり、供給力・サービス品質が低い事業者は淘汰リスクが高まる。 |
経営者が取るべき戦略的姿勢
ライドシェアを脅威と捉えるだけでなく、自社の人材戦略を見直す契機とすべきです。具体的には:
待遇改善だけでなく、働き方の多様化
国内人材に依存しない採用チャネルの確保
テクノロジー活用による業務効率化
3. 従来の採用手法が通用しなくなった3つの理由

理由1:労働条件への価値観の変化
現代の求職者、特に若年層は「高収入」よりも「ワークライフバランス」や「働き方の柔軟性」を重視します。
タクシー業界の従来型労働条件
隔日勤務(1回の乗務が15時間超)
歩合給中心で収入が不安定
夜勤・土日勤務が中心
これらは高度成長期には受け入れられましたが、現在の労働市場では敬遠される要因になっています。
理由2:二種免許取得のハードル
普通免許取得後3年以上の運転経験が必要な二種免許は、若手採用において高い壁となっています。
若手が直面する現実
21歳以上でなければ取得不可
取得費用は20〜30万円
取得期間は2〜3週間
企業側が費用を負担するケースも増えていますが、それでも「まず免許を取ってから」というプロセス自体が、他業界への流出を招いています。
理由3:業界イメージの固定化
「タクシー運転手=高齢男性の仕事」というイメージが根強く、若手や女性からの応募を阻んでいます。
実際には、以下のような魅力もあるにもかかわらず、それが十分に伝わっていません:
人と接する仕事のやりがい
地理や接客スキルの向上
比較的自由度の高い勤務形態

4. 持続可能な人材確保に必要な発想転換

「待ち」の採用から「攻め」の採用へ
従来の「求人を出して応募を待つ」スタイルでは、もはや人材は集まりません。必要なのは、積極的に人材にアプローチする姿勢です。
実践すべきアプローチ
ターゲットの再定義
定年退職者だけでなく、子育て世代の女性
副業希望者(日中のみ、週末のみ)
キャリアチェンジを考える30〜40代
採用チャネルの多様化
SNSを活用した情報発信
既存ドライバーによる紹介制度
地域の就労支援機関との連携
海外人材という新しい選択肢
労働環境の抜本的見直し
単に「給与アップ」だけでは人材は定着しません。働き方そのものを現代に合わせる必要があります。
見直すべき3つのポイント
1. 勤務シフトの柔軟化
短時間勤務制度の導入
日勤専属コースの設定
週休3日制などの選択肢
2. 収入の安定化
最低保証給の引き上げ
固定給比率の見直し
各種手当の充実
3. キャリアパスの明示
運行管理者へのステップアップ
教育担当やリーダー職の設置
スキルに応じた評価制度
テクノロジーを活用した業務負担軽減
ドライバーの負担を減らし、「働きやすい職場」を実現するには、テクノロジー活用が不可欠です。
導入すべきツール
AIによる需要予測:効率的な配車で空車時間を削減
キャッシュレス決済:現金管理の負担を軽減
ドライブレコーダー:トラブル時の証拠確保で精神的負担減
配車アプリ連携:流し営業の負担軽減
5. 特定技能外国人ドライバー採用という現実的選択肢

特定技能「運送業」分野の創設
2024年3月、特定技能制度に「運送業」分野が追加されました。これにより、タクシー、バス、トラックなどの運送事業者が、即戦力となる外国人ドライバーを正式に雇用できるようになりました。
特定技能制度の特徴
一定の技能と日本語能力を持つ人材
最長5年間の雇用が可能
家族帯同も条件付きで認められる
転職も可能(同業種内)
なぜ今、特定技能ドライバーなのか
国内人材の獲得競争が激化する中、特定技能外国人は以下の点で現実的な解決策となります:
項目 | 概要(簡潔) |
若手人材の確保 | 特定技能人材は20〜30代が中心で、業界の高齢化に対する貴重な若手労働力となる。 |
意欲の高さ | 日本で働く目的で来日しており、仕事への意欲が高く、定着率も比較的良い。 |
多様性がもたらす価値 | 外国人ドライバーにより、インバウンド対応や多言語サービス強化が可能。 |
採用コストの適正化 | 国内採用の高騰に比べ、適正コストで計画的な採用ができる。 |
特定技能ドライバー採用の実務ステップ
実際に特定技能外国人ドライバーを採用する場合、以下のプロセスを踏みます。

ステップ1:受け入れ体制の整備
社内の受け入れ方針策定
住居の確保
日本語学習支援の準備
既存社員への説明
ステップ2:登録支援機関の選定 特定技能人材の受け入れには、登録支援機関のサポートが有効です。特に初めて外国人を雇用する企業にとっては必須と言えます。
登録支援機関が提供する支援内容
人材のマッチングと紹介
在留資格申請のサポート
入国時の空港送迎
住居確保や生活オリエンテーション
日本語学習支援
定期的な面談とトラブル対応
行政手続きのサポート
例えば、特ドラWORKSは運送業に特化した登録支援機関として、業界特有の課題に精通したサポートを提供しています。
ステップ3:人材の選考
書類選考(履歴書、技能試験結果など)
オンライン面接
日本語能力の確認
実技試験(来日後)
ステップ4:在留資格申請
必要書類の準備(雇用契約書、支援計画書など)
出入国在留管理局への申請
審査期間は通常1〜3ヶ月
ステップ5:入国・受け入れ
空港での出迎え
住居への案内
生活必需品の準備支援
銀行口座開設、携帯電話契約などのサポート
ステップ6:就労開始と継続支援
業務研修の実施
定期的な面談(法定:3ヶ月ごと)
日本語教育の継続
生活相談への対応
採用にかかるコストと期間
初期費用の目安
人材紹介料:30〜50万円程度
在留資格申請費用:5〜10万円
渡航費用:5〜15万円(国により異なる)
住居初期費用:20〜30万円
月額コスト
給与:地域の最低賃金以上(日本人と同等以上)
登録支援機関への月額支援費:2〜4万円
社会保険等:通常の従業員と同様
採用期間
人材選定から入国まで:3〜6ヶ月程度
入国後の研修期間:1〜2ヶ月
6. 採用担当者が押さえるべき実践ポイント

受け入れ前の社内準備
特定技能外国人の受け入れ成功の鍵は、「受け入れる側の準備」にあります。
やるべきこと7つ
項目 | 概要(簡潔) |
経営層の理解と方針の明確化 | 外国人雇用を長期的な人材戦略として位置づけ、会社として方針を明確化する。 |
既存社員への説明と理解促進 | 外国人雇用の目的・必要なサポート・相互学習の意義を丁寧に共有する。 |
業務マニュアルの整備 | わかりやすい日本語、図解・写真、やさしい日本語などで理解しやすいマニュアルを作成。 |
コミュニケーション環境の整備 | 翻訳アプリ、 多言語ツール、サポート担当者の配置など環境づくりを行う。 |
住居の確保 | 会社借り上げ社宅、家具家電付き物件、通勤アクセスの良い住居を準備。 |
日本語学習支援の計画 | 業務用日本語研修、日常会話学習、オンライン学習ツールを提供する。 |
緊急時対応の整備 | 24時間連絡体制、医療情報共有、通訳サービスの準備など安心できる仕組みを整える。 |
定着率を高める日常的な取り組み
採用して終わりではありません。長期就業してもらうための継続的なサポートが重要です。
定着率を高める5つの施策
項目 | 概要(簡潔) |
定期面談の実施 | 法定では3ヶ月に1回だが、理想は月1回。仕事・生活・キャリアの悩みを丁寧にヒアリングする。 |
日本人社員との交流機会 | 歓迎会・懇親会、ランチミーティング、文化交流イベントなどで相互理解を促進。 |
評価とフィードバック | 明確な評価基準、成長を認めるフィードバック、昇給・昇格機会を提供。 |
キャリアパスの提示 | 将来の役職への道筋、スキルアップ研修、資格取得支援を示す。 |
生活面での継続サポート | 季節のアドバイス、地域情報の共有、同国コミュニティとの連携など生活を支える仕組みを整える。 |
よくある課題と対処法
課題1:日本語コミュニケーションの壁
対処法
やさしい日本語の使用を社内に徹底
ジェスチャーや図解の活用
業務用語集の作成
定期的な日本語研修の実施
課題2:文化・習慣の違い
対処法
入社時に日本のビジネスマナー研修
「なぜそうするのか」の理由を丁寧に説明
お互いの文化を学ぶ機会を設ける
相互理解を深める社内イベント
課題3:孤立感や寂しさ
対処法
バディ制度(先輩社員によるサポート)
同国出身者の紹介
地域の国際交流団体との連携
定期的な相談機会の提供
課題4:家族への心配
対処法
家族とのビデオ通話環境の支援
長期休暇の取得への配慮
一時帰国費用の補助制度
将来的な家族帯同の可能性の提示
成功事例に学ぶ
事例1:地方タクシー会社A社の取り組み

背景 従業員15名、平均年齢62歳。新規採用が5年間ゼロで事業縮小を検討。
取り組み 特定技能制度を活用し、ベトナム人ドライバー3名を採用。登録支援機関と連携し、手厚いサポート体制を構築。
結果
若手人材の確保により、夜間営業の再開が可能に
既存ドライバーの負担軽減で離職率が低下
外国人観光客からの評判が良く、指名予約が増加
2年目には追加で2名採用
成功の要因
社長自らが積極的に受け入れ
地域の国際交流協会と連携
既存社員が「先生役」としてサポート
事例2:都市部タクシー会社B社の取り組み

背景 従業員100名規模。インバウンド需要に対応できず、ビジネスチャンスを逃していた。
取り組み 特定技能ドライバー10名を採用し、多言語対応チームを編成。空港送迎や観光タクシーに特化。
結果
外国人観光客向け売上が前年比150%増
多言語対応が評価され、企業評価が向上
日本人ドライバーも語学学習に意欲
社内の多様性が社員の刺激に
成功の要因
明確な配置戦略(観光路線への特化)
多言語マニュアルの整備
文化交流イベントの定期開催
7. まとめ:2026年以降の人材戦略

業界が直面する3つの現実
タクシー・運送業界を取り巻く環境は、今後さらに厳しくなることが予想されます。
現実1:国内人材の獲得はさらに困難に 少子高齢化は加速し、若年労働人口は減少を続けます。他業界も人材獲得に必死であり、待遇改善だけでは差別化できません。
現実2:ライドシェアとの競争激化 限定的に始まったライドシェアは、段階的に拡大する可能性があります。柔軟な働き方を提供する新しいプレイヤーとの競争は避けられません。
現実3:利用者ニーズの多様化 多言語対応、キャッシュレス、バリアフリーなど、求められるサービスは高度化・多様化しています。人材不足だからといって、サービス品質を下げれば淘汰されます。
生き残る企業が実践する3つの戦略
戦略 | 概要(簡潔) | 具体策 |
戦略1:人材ポートフォリオの多様化 | 多様な人材を組み合わせ、強みを活かした配置と育成で持続的な経営を実現する。 | ・シニア:経験・接客力・女性:安心感・短時間勤務:ピーク時の戦力・特定技能外国人:若手・意欲・多言語対応 |
戦略2:テクノロジーとの融合 | テクノロジーで人手不足を補完し、ドライバーは人にしかできない価値提供に集中できる体制を構築する。 | ・AI配車・自動決済・需要予測データ分析・多言語デジタルツール |
戦略3:地域・業界との連携強化 | 地域・業界全体で人材を育成し活用する仕組みを構築する。 | ・地域の就労支援機関連携・業界団体の合同採用・他業種との人材シェア・教育機関との人材育成連携 |
今すぐ始めるべきアクション
人材戦略は、今日決断して明日結果が出るものではありません。だからこそ、今すぐ動き始めることが重要です。
経営者が今週やるべきこと
自社の年齢構成と今後5年の退職予測を明確化
現在の採用手法の効果を客観的に評価
特定技能制度についての情報収集
登録支援機関への相談予約
採用担当者が今週やるべきこと
特定技能運送業分野の要件を確認
受け入れに必要な社内体制をリストアップ
社内の理解促進のための資料作成
特ドラWORKSなど専門機関への問い合わせ
タクシー・運送業界の人手不足は、もはや一時的な課題ではなく、構造的な問題です。従来の採用手法や「いつか誰か来るだろう」という姿勢では、事業の継続すら危うくなります。
一方で、特定技能制度という新しい選択肢は、多くの企業にとって現実的で効果的な解決策となり得ます。重要なのは、「外国人だから」ではなく、「意欲ある若手人材」として受け入れ、育て、活躍してもらう環境を整えることです。








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